公益財団法人カシオ科学振興財団

研究成果

研究成果「民間海運企業グループの協力を得て、経済界主導による海洋環境保全体制が稼働」
令和元年(2019年) 研究助成 亀田 豊
「黒潮海流を中心としたアジア圏海洋中微細マイクロプラスチックの環境中挙動国際共同解明」

千葉工業大学 創造工学部都市環境工学科 教授 亀田 豊先生は、かねてから、水環境中の微量汚染物質(農薬、ウィルス、マイクロプラスチック等)の調査分析方法の開発及びその結果を用いた生態リスク評価の ご研究に取り組まれていらっしゃいます。
2019年には当財団より海中のマイクロプラスチック(MPs)に関する上記ご研究を助成させていただき、 研究時期がコロナ禍に重なる中、それを見事に克服して助成研究を完了されました。

この度、本助成研究を発展させ、学術成果のみならず、産業界からの協力を得られた研究体制を確立されたことで、地球環境問題の解決にむけて、研究調査活動がさらに広がりをみせているというご報告をいただきましたので、助成研究の発展事例としてご紹介いたします。


貴財団より研究助成をいただきました千葉工業大学創造工学部都市環境工学科 教授の亀田豊です。
我々の研究タイトルは「黒潮海流を中心としたアジア圏海洋中微細マイクロプラスチックの環境中挙動国際共同解明」です。現在のマイクロプラスチック調査は約0.3㎜以上の粒径のものしか対象としておらず、ヒトや野生生物の健康リスクが著しく高いと考えられている微細なMPsの全球レベル調査は、分析技術的、予算的および政治的問題から国際的に不可能とされています。この問題を打破するのが我々の目的になります。

そこで、まず、我々は分析機器メーカー社長に本プロジェクトの有効性を直談判して、高額な顕微フーリエ変換赤外分光光度計を借用して微細MPs分析技術の開発に成功しました。
これにより、20μm以上のMPsをほぼ自動で効率的に分析することを可能にしました。採択された計画であれば、この技術を用いてアジア圏内の海洋の調査をアジア各国と行いながら国際共同調査体制を構築する予定でしたが、新型コロナウィルスの世界的流行により共同調査は不可能でした。
しかし、まさしく、不幸中の幸いで、我々が開発した新技術を評価いただいた日本郵船株式会社様とともに、関連グループが所有する輸出入用のタンカー船を利用した世界の海洋中のMPs調査体制を構築することが出来ました。これは、世界初の画期的な環境調査体制です。つまり、従来の地球規模の環境調査は、国連等の巨大機関が旗を振る一方で調査費用が莫大なために明らかな成果が出にくいことが問題でした。国家間の調整の難航も問題の一つでした。しかし、我々は民間の海運企業グループが自らボランティアで世界海洋中のMPsを容易に採取する低予算、即効性のある組織を構築することができたのです(図1)。


図1 確立した国際調査分析体制

政治主導ではなく、経済界主導の環境保全体制の成功例と考えられます。この体制と分析技術のおかげで、図2に示すように世界初の海洋中の20μm以上のMPsの汚染状況の把握をたった一年で達成しました。


図2 20μm以上のMPsの汚染状況

この研究体制は世界からも注目されており、国連が支援しているGlobal Estuaries Monitoring (GEM) Programme(世界の海洋や河川の環境保全のための世界的調査体制構築計画)から、我々のチームの参加要請を受けるほどになりました。新型コロナウィルスの世界的流行、気候変動による世界的な災害、地球温暖化、MPs削減問題など、一国では解決不可能でかつ様々な国の主張の違いによりフットワークが重くなっている環境問題が増加しており、企業グループと民間研究機関が主体となる我々の新しいフレームの環境保全体制は、今後の新しい地球環境監視体制のモデルケースとして今後発展していくと期待されます。もちろん、貴財団のような若手研究者による萌芽的段階にある先駆的・独創的研究を重点に選定していただくコンセプトも重要となります。我々のプロジェクトも他の助成等では「あまりにもスケールが大きすぎて経験不足から採用できない」と不採択続きでした。国連を動かすレベルまでの成果を得ることができたのは、貴財団の貴重な開始資金があってこそでした。

斬新な研究ほど、現在の社会概念を覆すものが多いため、多くの方からは認められないのは仕方のないことです。しかし、トライ&エラーこそが社会を発展させるのも事実です。我々の研究プロジェクトは、さらなるデータを収集することで近いうちに海洋におけるMPsの将来濃度分布を様々な施策シナリオ別に予測できるAIシステムに発展する予定です。このシステムにより持続的発展可能な社会の中でプラスチックをどのように扱うべきか、道標が示されるでしょう。さらに、MPs以外の環境問題もこのAIシステムの応用が期待されます。その時には、我々のみならず理解支援してくださった企業の方々の貢献も十分評価される社会に近づいてほしいと思います。

令和4年5月15日
亀田 豊
お問い合わせ