公益財団法人カシオ科学振興財団

研究成果

研究成果「人工胎盤・人工子宮システムの開発と安全性の検証」
平成30年(2018年)研究協賛 齋藤 昌利
「ヒツジ胎仔を用いた人工胎盤・人工子宮システムの安全性に関する研究」

貴財団より研究協賛を受けました東北大学大学院医学系研究科 産科学・胎児病態学分野/周産期医学分野教授の齋藤昌利です。

我々の研究タイトルは「ヒツジ胎仔を用いた人工胎盤・人工子宮システムの安全性に関する研究」であり、そのタイトル通り人工胎盤・人工子宮という「映画の世界」的なデバイスを開発して、その安全性を検討することです。

現在、全世界においていわゆる早産の赤ちゃんは年間1,500万人も生まれていると言われています。また、その数は年々少しずつ増加しています。ここ日本においても高齢化・晩婚化の影響で早産率は高止まりしている状態で、「赤ちゃんを早産した場合、如何に安全に後遺症を残さずに成長させるか」という問題は分娩を取り巻く医療の大きな課題になっています。もちろん産科・新生児科の医療は日進月歩で進化していますが、それでも非常に早い週数に生まれた赤ちゃんの救命、後遺症なき成長はまだまだ難しいというのが現実です。
そうした非常に早いタイミングで生まれた赤ちゃんの医療が非常に難しい理由として、出産と同時に、羊水で充満された子宮の中から外の世界という180度違った環境の変化に対応しなければいけないことが挙げられます。そこで我々は、お母さんの子宮の中と外の世界の中間に位置するデバイスとして人工子宮・人工胎盤システムを開発しています。このシステムを使えば、子宮の中に似た人工羊水の中にいながら、外での治療に近いケアを受けることができ、非常に早い妊娠週数で生まれた未熟な赤ちゃんの救命率を上げたり、後遺症の発症を低くすることができ、非常に利益の大きい環境を提供することができます。

現在はまだヒツジを用いた動物実験段階ですが、将来的には人への実用化を目指して研究データを蓄積しています。貴財団からの研究協賛はまさしく我々の研究の大きなステップアップの時期に重なっており、本協賛がなければここまでの成果を上げ、将来を展望するところまでには到達できなかったと思います。前述した「実用化」までにはこれからも越えなければならない壁や時間も必要であると覚悟していますが、今後もチーム一丸となって研究を推進していければと思います。

2021年6月
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